私たちの生活に欠かせない「パッケージ」。
特に、ポテトチップスの袋やシャンプーの詰め替えパウチ、レトルト食品の袋など、軽くてしなやかな包装材は「軟包装」と呼ばれ、あらゆるシーンで活躍しています。
その世界市場規模は非常に大きく、2024年には2,587億4,000万米ドルと評価され、今後も成長が見込まれる巨大な市場を形成しており、私たちの消費活動を支える重要な存在です。

この記事では、そんな身近でありながら意外と知られていない「軟包装」についてに解説します。
軟包装の基本的な定義から、材質や形状による種類の違い、鮮やかなデザインを実現する印刷技術、そして環境問題への対応と今後の未来まで、専門的な内容を分かりやすく紐解いていきます。

「軟包装って結局プラスチックなの?」「お菓子の袋はどんな素材でできているの?」といった素朴な疑問にもお答えしながら、その多機能性と奥深い世界にご案内します。

軟包装とは?基本から徹底解説

軟包装は、私たちの暮らしのあらゆる場面で利用されている非常に便利な包装形態です。
ここでは、その定義や素材、よく似た言葉との違いなど、軟包装を理解する上での基本的な知識を解説します。

そもそも軟包装とは何ですか? - 軽くて柔軟なパッケージの正体

軟包装とは、その名の通り「軟らかく、形状を自由に変えられる包装」の総称です。
具体的には、プラスチックフィルム、紙、アルミニウム箔などの柔軟な素材を単独で、あるいは複数枚を貼り合わせて(ラミネートして)構成される包装形態を指します。

日本産業規格(JIS Z 0108)では、「紙、プラスチックフィルム、アルミニウム箔、布などの柔らかい柔軟性に富む材料で構成した包装」と定義されており、これが業界の共通認識となっています。

皆さんが日常的に手にするもので言えば、以下のようなものが代表的な軟包装です。

  • 食品: スナック菓子、レトルトカレー、冷凍食品、調味料、詰め替え用の味噌など
  • 日用品: 詰め替え用シャンプー・リンス、洗剤、化粧品サンプルなど
  • 医薬品: 粉薬や錠剤の分包など

その軽量性、カスタマイズ性、そして優れた製品保護機能により、食品、医薬品、日用品といった幅広い分野で不可欠な存在となっています。

軟包装はプラスチックですか? - 主な素材と構成

「軟包装はプラスチックですか?」という質問に対しては、「主要な構成要素はプラスチックフィルムですが、それだけではありません」と答えるのが最も正確です。

定義が示す通り、軟包装にはプラスチックフィルムの他に、紙やアルミニウム箔も使用されます。
しかし、特に内容物の密封性が求められるパウチ容器のような形態では、プラスチックフィルムが主な材料となっているのが実情です。
これは、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)に代表されるプラスチックが持つ、ヒートシール性(熱による密封性)、多様なバリア機能の付与のしやすさ、強度と柔軟性のバランス、透明性、印刷適性といった機能的優位性によるものです。

多くの場合、単一の素材だけで使われるのではなく、複数の異なる素材を貼り合わせた「多層フィルム(ラミネートフィルム)」が用いられます。
例えば、光や酸素を徹底的に遮断したいポテトチップスの袋の場合、以下のような構成が考えられます。

  • 最外層(印刷層): デザインを印刷する層。
    美しい印刷適性を持つOPP(二軸延伸ポリプロピレン)などが使われる。
  • 中間層(バリア層): 酸素や水蒸気、光を通さないための層。
    アルミ箔や、高いバリア性を持つアルミ蒸着フィルム(VMPETなど)が使われる。
  • 最内層(シーラント層): 内容物に直接触れ、熱で溶かして袋を密封するための層。
    無臭で安全性の高いCPP(無延伸ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)が使われる。

このように、それぞれの素材が持つ機能を組み合わせることで、中身を最適に保護する高性能なパッケージが作られているのです。

軟包装の逆は「硬包装」- 違いを比較

軟包装の対義語として用いられるのが「硬質包装(こうしつほうそう)」または「剛包装(ごうほうそう)」です。
これは、ガラス瓶や金属缶、硬質のプラスチックボトル(ペットボトルなど)のように、一定の形状を保持し、変形しにくい硬質の素材で作られた包装を指します。

両者の違いを比較すると、それぞれの得意分野が見えてきます。

項目 軟包装 (Flexible Packaging) 硬質包装 (Rigid Packaging)
定義・形態 柔軟な素材(フィルム、紙、箔)を使用。
形状は内容物に依存しやすい。
例:袋、パウチ、ラップ。
硬質の素材を使用し、自立した固定形状を持つ。
例:瓶、缶、硬質プラスチックボトル、箱。
素材例 プラスチックフィルム(PE, PP, PET等)、紙、アルミ箔、およびこれらの積層品。 ガラス、金属(スチール、アルミニウム)、硬質プラスチック(PET, HDPE, PP等)、紙器。
重量 非常に軽量。 一般的に軟包装より重い。
輸送効率 高い(軽量、省スペース)。 低い(重量、容積がある)。
製品保護 物理的保護は用途による。
バリア性は積層により高度に調整可能。
高い物理的保護性、耐圧性。
バリア性は素材による(ガラス、金属は非常に高い)。
リサイクル性 多層構造の場合に課題がある。
モノマテリアル化やケミカルリサイクルが進展中。
PETボトル、ガラス瓶、アルミ缶などリサイクル率が高いものもある。
欠点 物理的強度が硬質に劣る場合がある、内圧に弱い。 重い、かさばる、輸送コストが高い、破損しやすい(ガラス)、廃棄時の容積が大きい。

どちらの包装形態が絶対的に優れているということではなく、製品の性質、流通経路、コスト、そして環境への配慮といった多角的な要素を総合的に勘案して決定されます。

軽包装材との関係性

「軽包装材」という用語は、軟包装と非常に密接に関連する概念として用いられます。
この用語は、特に包装材の軽量性を強調する際に使われることが多く、「重包装」と対比されます。

重包装は、工業製品や重量物の輸送・保管に用いられる頑丈な包装を指すのに対し、軽包装は主に食品包装など、消費者が購入する単位の個装や内装に用いられる包装材料を指します。
軟包装は、その薄いフィルムや軽量な素材特性から、主にこの「軽包装材」の領域に位置づけられます。

多様な軟包装の種類と技術

軟包装の魅力は、その多様性にあります。
中に入れる製品や求められる機能に応じて、形状、素材、印刷技術が自在に組み合わせられます。
ここでは、軟包装の具体的な種類や、その機能を支える技術について掘り下げていきます。

用途で選ぶ!軟包装の主な種類と特徴

軟包装はその柔軟性から、多様な形態のパッケージに加工されます。
代表的なものには以下のような種類があります。

  • 平パウチ(三方シール袋、四方シール袋): 最も基本的な袋形状で、粉末スープや化粧品サンプルなどに使用されます。
  • スタンドアップパウチ(自立袋): 底面にマチがあり、自立可能なパウチ。
    店頭での陳列効果が高く、液体洗剤の詰替えや調味料など、用途が拡大しています。
  • ガゼット袋: 側面に折り込み(ガゼット)がある袋。
    コーヒー豆や茶葉など、ある程度の容量がある製品に適しています。
  • スパウト付きパウチ: 注ぎ口(スパウト)が付いたパウチ。
    ゼリー飲料や調味料、シャンプー詰替えなど、液体や粘性のある製品に適しています。
  • ピロー袋: フィルムを背中合わせで貼り合わせた枕(ピロー)状の袋。
    スナック菓子などに多用される最もポピュラーな形態の一つです。

お菓子のパッケージにも使われる軟包装フィルムの秘密

多くのお菓子のパッケージには、なぜ軟包装、特に多層構造のフィルムが使われるのでしょうか。
その理由は、お菓子が非常にデリケートな製品だからです。

例えばポテトチップスの場合、美味しさを損なう3つの大敵がいます。

  1. 酸素: 油脂を酸化させ、風味を劣化させます。
  2. 光(特に紫外線): 油脂の酸化を促進します。
  3. 水蒸気: サクサクとした食感を奪ってしまいます。

これらの外的要因から中身を守るため、軟包装フィルムには高い「バリア性」が求められます。
具体的には、外層に印刷適性の良いOPP、中間層に光とガスを遮断するアルミ蒸着フィルム(VMCPPやVMPET)、内層に密封性の高いフィルムを組み合わせた構成(例:OPP/VMCPP)などが一般的に用いられます。
これにより、長期間の品質保持を実現しているのです。

鮮やかなデザインを実現する軟包装の印刷技術

軟包装のもう一つの大きな役割は、消費者の購買意欲を掻き立てる「商品の顔」となることです。
その美しいデザインを実現しているのが、主にグラビア印刷とフレキソ印刷です。

  • グラビア印刷:
    微細な凹みを持つ金属製の版(シリンダー)を用いる凹版印刷。
    写真やグラデーションの再現性に優れ、非常に高品質な仕上がりが得られるため、食品パッケージのシズル感の表現などに適しています。
    高速での大量生産に向いていますが、版の製作コストが高いため、小ロット生産には不向きとされます。
  • フレキソ印刷:
    弾性のある樹脂製の凸版を用いる凸版印刷。
    版が柔軟なため、フィルムだけでなく段ボールなど多様な素材に印刷できます。
    グラビアに比べて版のコストが安く納期も短いため、多品種小ロット生産に適しています。
    また、環境負荷の低い水性インキの使用が可能であることから、サステナビリティの観点からも注目が高まっています。

現在もグラビア印刷が主流ですが、近年の品質向上と環境意識の高まりを背景に、フレキソ印刷の採用が拡大しています。

軟包装容器で食品を包む大きなメリット

食品を包装する上で、軟包装が選ばれるのには明確な理由があります。
主に以下のメリットが挙げられます。

  1. 高い保存性と安全性: 適切なフィルム構成により、酸素、水蒸気、光などによる食品の劣化を防ぎ、鮮度を長期間保持します。
    これにより賞味期限が延長され、フードロスの削減にも貢献します。
    また、外部からの汚染を防ぎ、衛生状態を保ちます。
  2. 省資源・省エネルギー: 硬質容器に比べて包装材の使用量が少なく、非常に軽量です。
    これにより、製品の輸送効率が向上し、輸送コストとCO2排出量を削減できます。
  3. 利便性とマーケティング効果: チャックによる再封機能や、袋のまま電子レンジで加熱できる機能など、消費者の利便性を高める工夫が容易です。
    また、表面全体に高品質な印刷を施せるため、製品の魅力を最大限に引き出し、ブランドイメージを効果的に伝えることができます。

軟包装の今後はどうなりますか? - 環境問題への挑戦と未来

これほど多機能で便利な軟包装ですが、その未来を語る上で避けて通れないのが「環境問題」、特にプラスチックごみ問題です。
多層ラミネート構造がリサイクルを困難にしているという課題に対し、業界全体で持続可能な社会に向けた変革が強く求められています。

現在、業界全体で以下のような取り組みが加速しています。

  • モノマテリアル化(単一素材化):
    リサイクルを容易にするため、包装材をポリエチレン系のみ、またはポリプロピレン系のみといった単一(あるいは同系統)の素材で構成する技術開発が進んでいます。
    バリア性などの機能を維持しつつリサイクル適性を高めたパッケージが次々と開発されています。
  • ケミカルリサイクルの実用化:
    使用済みプラスチックを化学的に分解し、元の原料レベルまで戻してから再利用する「ケミカルリサイクル」技術が注目されています。
    異なる素材が混ざった複合プラスチックも処理でき、新品と同等の品質のプラスチックを再生できるため、食品容器への再利用も期待されています。
    ただし、設備コストや安定的な原料確保などが課題です。
  • バイオマスプラスチックの活用:
    サトウキビなどの植物由来の資源から作られる「バイオマスプラスチック」の利用も拡大しています。
    化石資源への依存を減らし、カーボンニュートラルの実現に貢献する可能性があります。
  • 環境規制への対応:
    特に欧州連合(EU)の「包装および包装廃棄物規則(PPWR)」は大きな影響を与えます。
    この規則は、2030年までに全ての包装をリサイクル可能にすることを目指し、再生材の最低含有率などを義務付けており、軟包装の設計に大きな変革を求めています。

軟包装は、その軽量性や保存性といった機能から、今後も私たちの生活に不可欠な包装形態であり続けるでしょう。
未来に向けて、環境性能をさらに高めた「サステナブルな軟包装」への進化が、今まさに進行しているのです。

軟包装まとめ

本記事では、多岐にわたる「軟包装」の世界について、その基本から最新の技術動向までを解説しました。

  • 軟包装は、プラスチックフィルム、紙、アルミ箔などを主原料とする、軽くて柔軟な包装形態です。
  • 多くは単一素材ではなく、複数の素材を貼り合わせた多層フィルムで構成され、高いバリア機能などを実現しています。
  • グラビア印刷フレキソ印刷などの技術により、美しいデザインが可能です。
  • 軽量性、保存性、利便性に優れ、特に食品分野で大きなメリットを発揮します。
  • 対義語は硬質包装(剛包装)で、瓶や缶がこれにあたります。
  • 今後は、プラスチックごみ問題に対応するため、モノマテリアル化ケミカルリサイクルバイオマスプラスチックの活用など、環境配慮型の製品開発が未来の鍵となります。

身の回りのパッケージを少し意識して見てみると、そこには中身を守り、私たちの生活を豊かにするための様々な技術と工夫が詰まっていることに気づくはずです。
この記事が、軟包装への理解を深める一助となれば幸いです。

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