生物多様性オフセットとは、開発などで失われる生物多様性と同じ、またはそれ以上の生物多様性を別の場所で保全・再生することで、損失を補償(オフセット)する仕組みです。
開発による自然環境への影響を最小限に抑え、生物多様性の損失を「ネットゼロ」あるいは「ネットポジティブ」にすることを目的としています。
具体的には、開発事業者は、開発によって失われる生物多様性の価値を定量的に評価し、それと同等以上の価値を持つ別の場所での保全活動に出資したり、自ら保全活動を実施したりします。
生物多様性オフセットの仕組みは、以下のステップで進められます。
1.回避: 開発による生物多様性への影響をできる限り回避する。
2.最小化: 回避できない影響をできる限り最小化する。
3.修復: 影響を受けた生物多様性を可能な限り元の状態に修復する。
4.オフセット: 残された影響を、別の場所での保全活動によって補償する。
生物多様性オフセットには、いくつかのデメリットも指摘されています。
例えば、失われた生物多様性と全く同じものを別の場所で完全に再現することは困難であり、オフセット可能性には限界があります。
生物多様性の価値を定量的に評価することは容易ではなく、適切なオフセット量を設定することが難しいという課題もあります。
生物多様性オフセットが、開発を正当化するための手段として悪用される、いわゆる「グリーンウォッシュ」の懸念も存在します。
生物多様性オフセットに関連する制度として日本では環境庁告示第八十七号で、以下の基本的事項が記載されている。
第三 環境保全措置指針に関する基本的事項
二 環境保全措置の検討に当たっての留意事項
(1) 環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するも のとし、これらの検討結果を踏まえ、必要に応じ当該事業の実施により損なわれる環境要素と同 種の環境要素を創出すること等により損なわれる環境要素の持つ環境の保全の観点からの価値を 代償するための措置(以下「代償措置」という。)の検討が行われるものとすること。
※(環境庁告示第八十七号)抜粋
世界各国では、生物多様性オフセットの導入が進められており、多くの事例が報告されています。
ここでは、日本の事例を紹介しながら、生物多様性オフセットの課題についても検証します。
日本においては、動植物の移設・移植・播種、事業実施区域内における生息環境等の整備の代償措置が検討されることが多いが、事業実施区域外における代償 措置が検討されている場合も一部見られる(表1)。
代償措置の種類 | 当該措置を採用した事例/保全対象種【実施場所 ※1】 |
保全対象種を生息・生育適地に移設・移植・播種する。 | 出雲仁摩道路/メダカ、モノアラガイ、ゲンゴロウ等 東海環状自動車道(養老町~海津市南濃町)/ナガエミクリ、スズカカンアオイ 肱川水系山鳥坂ダム建設事業/メヤブソテツ、アカソ、ミヤマミズ等 豊川水系設楽ダム建設事業/シャジクモ、アギナシ、オオミズゴケ等 |
全対象種の生息・生育に適した環境を整備する。 | 祓川水系伊良原ダム/コキクガシラコウモリ、カヤネズミ、アオバズク【事業区域内・周辺】 敦賀発電所 3,4 号機増設計画/モリアオガエル 茶屋新田土地区画整理事業/オオタカ、チュウサギ、コアジサシ等【事業区域外】 |
保全対象種の生息・生育に適した環境を整備し、当該種を移設・移植・播種する。 | 新石垣空港整備事業/サキシマヌマエビ、オカイシマキガイ、ムラクモカノコガイ等【事業区域内】 北九州学術・研究都市北部土地区画整理事業 /カスミサンショウウオ等【事業区域内】 豊川水系設楽ダム建設事業/シャジクモ、アギナシ、オオミズゴケ等【事業区域内】 |
※1 代償措置の実施場所については、環境影響評価書に掲載されている場合のみ記載
生物多様性オフセットを実施する上で、開発による影響と保全の効果を正確に測り、比較することが重要です。
しかし、生物多様性を数値化することは容易ではありません。
HEP(Habitat Evaluation Procedure)は、HEPは、「主体」、「質」、「空間」、「時間」の評価視点を有する生物多様性を定量化する代表的な手法の一つですが、以下の課題があります。
ハビタット変数とは、ある生物種が生息できるかどうかを左右する環境要因のことを指します。
例えば、ある種の魚が保全対象種の場合、水温が生息できる温度の範囲内であるか、水深がその魚が好む深さであるかなどを調べることになります。
●質の評価の難しさ:
特に希少種の場合、生態に関する情報が不足しており、適切なハビタット変数やハビタット適性を設定することが難しい。
●時間の評価の難しさ:
保全の効果が現れるまでに時間がかかる場合、長期的な影響を予測することが難しい。
●事前の予測の不確実性:
設計段階では完全な定量的評価を行うことは困難。
上記の課題に対応するために、以下の2点が重要となります。
●順応的管理:
実施段階でモニタリングを行い、状況に応じて対策を修正することで、リスクを低減する。
●ステークホルダーの参加:
専門家や地域住民など、様々な関係者が参加することで、合意形成を図り、より適切な評価と対策を実施する。
生物多様性オフセットは、開発と保全の両立を図るための有効な手段となる可能性があります。
しかし、その効果を最大化するためには、適切な評価方法の開発、法制度の整備、ステークホルダーとの合意形成、長期的なモニタリングなど、解決すべき課題も多く残されています。
今後も、生物多様性オフセットの動向に注目し、その可能性と限界をしっかりと見極めていくことが重要です。
参考資料 一般財団法人:水源地環境センター
生物多様性オフセットに関する現状と課題
参考資料 環境省
生物多様性オフセットに関連する取り組みについて
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