シリーズ 2050ネットゼロ|マスバランス方式とは?メリットや課題を詳しく解説

持続可能な社会の実現が重要視される昨今、注目されているのが「マスバランス方式」です。
環境負荷を低減しつつ、既存の設備でバイオマスやリサイクル原料を活用できるため、多くの企業が導入を進めています。
ただ、具体的にどのようなものなのか、どう進めればよいかわからない方も多いでしょう。
本記事では、マスバランス方式の仕組みやメリットに加え、導入事例や課題について詳しく解説します。
持続可能な製品づくりや環境対応を進める企業にとって役立つ内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
マスバランス方式とは
マスバランス方式とは、製造過程で異なる特性を持つ原料が混合される場合に、投入量に応じて製品に特性を割り当てる方法です。
たとえば、バイオマス由来の原料3トンと石油由来の原料7トンを使って10トンの製品を作る場合、3トン分を「100%バイオマス由来」として扱い、残りの7トンを「石油由来」とみなします。

原料の入りと出をバランスよく配合することで、バイオマス原料100%製品を1種類だけ作るよりも、原料の配合率を変化させることで、現状バイオマス原料の使用が難しい製品にも広く対応が可能となります。

マスバランス方式のメリット
マスバランス方式のメリットは、環境負荷を減らし、持続可能な原料の活用を促進できる点にあります。
既存の設備をそのまま使いながら、バイオマス由来やリサイクル原料を導入できるため、企業のコスト削減や迅速な導入が可能です。
さらに、消費者に対して環境に配慮した製品を提供しやすくなり、企業のブランド価値向上にもつながります。
ここでは、マスバランス方式の具体的なメリットについて詳しく説明します。
コストを削減できる
マスバランス方式では、今ある生産設備やプロセスをそのまま使えるため、大規模な設備投資は不要です。
バイオマス由来の原料を使う場合も、従来の石油由来原料と混ぜて処理できるため、新しい製造ラインを設ける必要はありません。
そのため、初期費用を抑えながら環境に優しい製品を作ることができます。
運用コストの削減にもつながり、効率的で持続可能な生産体制を目指せます。
生産が難しい素材でも早期実装できる
すべてを認証原料で作るのが難しい場合でも、マスバランス方式なら早期に環境対応が可能です。
認証原料と非認証原料を混ぜても、投入した認証原料の割合に応じて製品に特性を割り当てることができます。
このように少しずつ持続可能な原料の使用を増やすことができるため、環境に配慮した製品をいち早く市場に出せるのです。
認証原料100%製品を提供できる
マスバランス方式を利用すると、企業は消費者や取引先に対して環境への取り組みをアピールできます。
投入した認証原料の量に応じて、製品を「認証原料100%」として表示・販売できるためです。
さらに、第三者認証を取得することで、サプライチェーン全体の信頼性が向上し、ブランド価値や市場競争力の強化にもつながります。
環境対応に貢献できる
消費者はマスバランス方式で作られた製品を選ぶことで、持続可能な社会の実現に貢献できます。
バイオマス由来原料の需要が高まり、認証農園の支援やリサイクル原料の使用が進むためです。
さらに、マスバランス方式の製品を選択することで企業の生産活動にも影響を与え、持続可能な市場の成長を後押しします。

マスバランス方式の課題・活用に関する考え方
マスバランス方式は持続可能な原料の活用を促進する一方で、いくつかの課題も存在しており、透明性や管理の面で注意が必要です。
ここでは、マスバランス方式を導入する際に考慮すべき点について説明します。
見かけのバイオマス比率と実際のバイオマス比率が異なる
マスバランス方式は、消費者が製品の原料を誤解するリスクがあります。
製品の「バイオマス由来」といった表示が、実際の原料構成を正確に反映していない場合があるからです。
たとえば、バイオマス由来の原料3トンと石油由来の原料7トンを使って10トンの製品を作る場合、3トン分を「100%バイオマス由来」として扱い、残りの7トンを「石油由来」とみなすことができます。
そのため、「100%バイオマス由来」と表示されていた場合でも、消費者が手にする個々の製品にはバイオマス原料が30%しか含まれていないということが起きうるのです。
このような表示と実際の原料比率の違いは、製品の信頼を損なう可能性もあるため注意が必要です。
原料の追跡や管理が難しく、不正のリスクがある
マスバランス方式では認証原料と非認証原料が混ざるため、各原料の投入量や使用状況を正確に追跡・管理する必要があります。
しかし、サプライチェーンが複雑化するにつれて、原料の流れを細かく管理することは困難です。
万が一、管理が不十分だと、不正が発生するリスクも否定できません。
原料の追跡や管理を徹底するには、環境省が示すマスバランス方式の基本的な考え方を参考にし、第三者認証機関による監査を受けることが推奨されます。
例えば、当社ではISCC認証を取得し、厳格な管理体制を整えています。
詳しくは次の記事を参考にしてください。
ISCC PLUSに対応

当社での取り組みビジョンをご紹介
バイオマス由来素材使用量を割り当てた対象製品を取り扱うことが可能...
IP(アイデンティティ・プリザーブド)方式とは
IP方式(アイデンティティ・プリザーブド方式)は、特定の仕入れ先から100%認証原料のみを調達する方法です。
認証された原料はほかの非認証原料といっさい混ざらず、完全に分けて管理されます。
そのため、原料の出所が明確に追跡でき、確実に認証された供給源から調達されていることを保証できます。
例えば、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)では、IP方式が最も厳格な管理基準の一つです。
IP認証を受けたパーム油は特定の認証農園で生産されたものだけを使い、搾油から最終製品の製造に至るまで、ほかのパーム油と完全に区別されます。
したがって、消費者は製品に含まれるパーム油が確実に持続可能な方法で生産されたものであると安心できます。
現在広く採用されているマスバランス方式では、認証原料と非認証原料が混ざることがありますが、持続可能な調達を進める中で、最終的にはIP方式のように認証原料と非認証原料を完全に分けて管理ができる形が目指されています。

マスバランス方式を採用している企業例
マスバランス方式は、持続可能な社会の実現に向けて多くの企業が導入を進めています。
ここでは、マスバランス方式を積極的に取り入れている企業の具体例を紹介します。
三井化学
三井化学株式会社はプラスチックの環境負荷を低減するために、マスバランス方式を積極的に導入しています。
具体的には、バイオマスやリサイクル原料を従来の石油由来ナフサと混ぜ、使用割合に応じて製品を「バイオマス由来」として認定する仕組みを取り入れています。
2022年には、「BePLAYER®︎」「RePLAYER®︎」というブランドを立ち上げ、バイオマス原料やリサイクル素材を使用した製品を展開しています。
参考:三井化学株式会社
三菱ケミカル
三菱ケミカルはENEOS株式会社と共同で、使用済みプラスチックを石油精製や石油化学の原料として再生利用するケミカルリサイクル事業を進めています。
例えば、茨城事業所に年間2万トンの処理能力を持つ国内最大規模のプラスチック油化設備を設置し、2023年度から稼働を開始しました。
また、アクリル樹脂(PMMA)のケミカルリサイクルにも取り組んでおり、マイクロ波化学株式会社と協力して実証設備を建設しています。
参考:三菱ケミカル株式会社|持続可能な成長をめざすサーキュラーエコノミー
マクドナルド
日本マクドナルド株式会社は持続可能な社会を目指し、容器やカトラリー類を環境に配慮した素材へと切り替える取り組みを進めています。
実際に、2025年末までに、すべての容器包装を再生可能素材やリサイクル素材に移行することを目標に掲げています。
2023年12月には、マックフルーリーの容器をプラスチック不使用の紙製に変更し、容器とふたを一体化したデザインにリニューアルしました。
さらに、マックフィズ®やマックフロート®のカップとふたには、マスバランス方式を採用したバイオマスPPやリサイクルPETを採用しています。
参考:日本マクドナルドホールディングス|バージンプラスチック※1削減の新たな取り組み> 「マックフルーリーの容器&スプーン」
KPPが取り扱うマスバランス方式の製品例紹介
当社は、持続可能な社会の実現に向け、マスバランス方式を用いた製品の取り扱いを積極的に進めています。2024年3月には、マスバランス方式によってバイオマス由来の特性を割り当てられた食品用フィルムなどのご提案が可能となりました。
当社は「2050ネットゼロ」という目標を掲げ、2050年までに事業を通して排出されるCO2の量を実質ゼロにすることを目指しています。
目標達成に向けた重要な取り組みの一つが、ISCC PLUS認証の取得です。
ISCC PLUS認証は、持続可能性に関する国際的な認証制度であり、マスバランス方式を含むさまざまな持続可能性基準への適合性を証明します。
ISCC PLUS認証を取得することで、規格に準拠したバイオマス製品の取り扱いを拡大し、サプライチェーン全体を通して環境負荷低減に向けた取り組みを推進します。

国際紙パルプ商事株式会社 ニュースリリース:ISCC PLUS 認証取得のお知らせ
マスバランス方式の実現ならKPPにご相談を
マスバランス方式は、環境負荷を抑えながら持続可能な製品を生産するための重要な手法です。
コストを抑えつつ、既存の設備でバイオマスやリサイクル原料を活用できるため、多くの企業が導入を進めています。
しかし、実際の原料比率と表示に差が生じる可能性や、原料の追跡・管理の難しさといった課題も存在します。
こうした課題をクリアするために重要なのが、ISCC PLUS認証です。
当社ではISCC PLUS認証を取得し、規格に準拠したバイオマス製品の取り扱いを強化しています。
マスバランス方式の導入や環境配慮型製品の開発を検討されている方は、まずは次の資料をご覧ください。
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