MFR(メルトフローレイト)とは?樹脂の流動性を測る重要指標と測定法を徹底解説


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MFR(メルトフローレイト)とは?樹脂の流動性を測る重要指標と測定法を徹底解説

プラスチック製品の製造や開発の現場において、「思ったように成形できない」「樹脂が金型の隅まで届かない」といったトラブルに直面したことはないでしょうか。
あるいは、新しい素材への切り替えを検討する際、カタログに記載されている無数の数値のどこを見ればよいか、迷ってしまうこともあるかもしれません。
樹脂選びにおいて最も基本的、かつ極めて重要な指標の一つが「MFR(メルトフローレート)」です。
この数値は、樹脂の「流れやすさ」を表しており、成形不良を防ぎ、生産効率を高めるための鍵となります。

本記事では、MFRの基礎知識から測定方法、数値の見方までを、専門知識がない方にもわかりやすく徹底解説します。
正しい知識を身につけ、ビジネスにおける最適な材料選定にお役立てください。

MFRとは何か?プラスチックや樹脂の性能評価において重要な指標


プラスチック成形において、材料がドロドロに溶けた状態で金型の中をどのように流れていくかを予測することは、製品の品質を左右する最初の一歩です。
ここで登場する「MFR」は、まさにその「流れやすさ」を数値化したものです。
まずは、MFRの定義と、なぜそれが重要なのか、基礎的な部分から紐解いていきましょう。

MFRの定義と概要、成形性評価における重要性

MFRとは「Melt Flow Rate(メルトフローレート)」の略称です。
日本語では「メルトフローレイト」や「溶融質量流れ速度」と呼ばれることもあります。
簡単に言えば、「一定の温度と圧力の下で、樹脂がどれくらいサラサラと流れるか、あるいはドロドロと粘り気が強いか」を示す指標です。

例えば、サラサラの水は細い管でもすぐに通り抜けますが、冷えた水飴のような粘り気の強い液体は、圧力をかけないと通り抜けません。
樹脂も同様で、熱で溶かした際の「粘度(粘り気)」は種類やグレードによって大きく異なります。

この粘度の違いを統一された基準で数値化したものがMFRです。
成形性評価において、MFRは以下の理由から極めて重要視されています。

  • 成形方法の適合性判断
    射出成形のように複雑な形の金型に樹脂を流し込む場合は、流れやすい(MFRが高い)樹脂が適しています。逆に、パイプやシートのように押し出して形を作る場合は、ある程度の形を保つために粘り気のある(MFRが低い)樹脂が求められます。
  • 不良率の低減
    製品形状に対してMFRが低すぎる(流れにくい)樹脂を選ぶと、金型の末端まで樹脂が届かない「ショートショット」という不良が発生します。逆にMFRが高すぎると、金型の隙間から樹脂が漏れ出す「バリ」の原因になります。
  • 生産性の向上
    適切なMFRの樹脂を選ぶことで、成形サイクル(1つの製品を作る時間)を短縮したり、成形温度を下げてエネルギーコストを削減したりすることが可能になります。

つまり、MFRを理解することは、品質の安定とコストダウンに直結するのです。

MFRの単位とその他の指標(流動性・MVR・MI)との違い


MFRの値を正しく読み取るためには、その単位や、似たような言葉との違いを理解しておく必要があります。

MFRの単位

MFRの単位は「g/10min」です。
これは、「ある一定の条件で10分間樹脂を押し出したときに、何グラムの樹脂が出てきたか」を表しています。
例えば「MFR 10 g/10min」の樹脂と「MFR 30 g/10min」の樹脂を比べると、後者の方が同じ時間で3倍の量が流れ出ることになるため、より流れやすい(粘度が低い)樹脂であると判断できます。

次に、混同しやすい用語について整理します。

① 流動性

「流動性」とは、物質の流れやすさを表す一般的な言葉です。
MFRは、この流動性を客観的な数値で表した「指標の一つ」です。
一般的に、MFRの数値が大きいほど「流動性が高い(流れやすい)」、数値が小さいほど「流動性が低い(流れにくい)」と表現されます。

② MVR(Melt Volume Rate:溶融体積流れ速度)

MFRと並んでカタログに記載されることが多いのが「MVR」です。
MFRが「重さ(質量)」を測るのに対し、MVRは流出した樹脂の「体積(容積)」を測ります。
単位は「cm³/10min」です。
樹脂は種類によって密度が異なります。MFR(重さ)は密度の影響を受けますが、MVR(体積)は密度の影響を受けずに純粋な流れの体積を知ることができます。
MFRとMVRの関係は以下の式で表されます。
MFR = MVR×溶融密度

③ MI(Melt Index:メルトインデックス)

ベテランの技術者や古い資料では、「MI」という言葉が使われることがよくあります。
実は、MIとMFRは実質的に同じものを指しています。
以前は慣習的にMIと呼ばれていましたが、JIS規格などの国際的な標準化に伴い、現在は「MFR」という呼称が正式に使われています。
現場で「MI値はいくつか?」と聞かれたら、MFRのことと解釈して問題ありません。

MFRの測定方法とJIS K 7210規格に基づいた手順


MFRの値は、世界共通のルールに基づいて測定されなければ比較検討ができません。
日本では、日本産業規格(JIS)によってその測定方法が厳密に定められています。
ここでは、実際にどのようにしてMFRが測定されているのか、その舞台裏を解説します。

JIS K 7210規格におけるMFRの測定方法と注意点

MFRの測定方法は、JIS K 7210(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方)という規格で規定されています。
この規格は、国際規格であるISO 1133と整合性がとられています。
測定には「メルトインデクサー」と呼ばれる専用の試験機を使用します。
測定の基本的な仕組みは、ところてんを押し出す様子をイメージするとわかりやすいでしょう。

具体的な測定手順:

  • 予熱: シリンダーと呼ばれる筒状の容器を、樹脂ごとに決められた温度(試験温度)に加熱します。
  • 充填: シリンダーの中に、乾燥させたペレット状または粉末状の樹脂試料を入れます。
  • 加圧: 樹脂の上にピストンを置き、さらにその上に規定の重り(荷重)を載せます。
  • 押し出し: 熱で溶けた樹脂が、重りの圧力によってシリンダーの底にある小さな穴(ダイ)からヌルヌルと押し出されます。
  • 切り取りと計量: 一定時間ごとに押し出された樹脂をカットし、その質量を電子天秤で精密に測ります。

測定における重要な注意点

MFRの測定において最も重要なのは、「温度」と「荷重」の条件です。
樹脂の種類によって、測定条件が細かく決められています。

  • ポリエチレン(PE): 190℃、2.16kg荷重
  • ポリプロピレン(PP): 230℃、2.16kg荷重

このように、素材ごとに「どの温度で、どれくらいの力で押すか」という前提条件(A法、B法など)が異なります。
そのため、異なる樹脂同士のMFR値を単純に比較することはできません。
カタログを見る際は、必ず「どの条件で測定された数値か」を確認する必要があります。

MFRの計算式と試験条件の設定について

実際に測定されたデータから、どのようにMFRが算出されるのでしょうか。
測定では、短時間(例えば30秒や60秒など)に切り取った樹脂の重さを測りますが、MFRの定義は「10分間あたりの流出量」です。
そのため、以下の計算式を使って換算を行います。
MFR(g/10min) = 600×切り取った樹脂の平均質量(g)÷切り取り時間(秒)
※600:10分間を秒換算した数値

例えば、測定温度230℃、荷重2.16kgの条件でポリプロピレンを測定し、30秒ごとにカットした樹脂の平均重量が0.5gだったとします。
この場合、式に当てはめると以下のようになります。
MFR(g/10min) = 600×0.5÷30 = 10(g/10min)
この計算により、この樹脂のMFRは10であると求められます。

試験条件の設定の重要性
近年では、リサイクル材やバイオマスプラスチックなど、新しい素材が増えています。
これらの素材は、熱履歴(過去に熱を受けた回数)や添加剤の影響で、標準的な樹脂とは異なる挙動を示すことがあります。
また、吸湿性のある樹脂(ナイロンやPETなど)の場合、事前の乾燥が不十分だと、測定中に水分が蒸発して泡を含んでしまい、正しい値が出ないことがあります。
MFRは非常にシンプルな試験ですが、前処理や条件設定を誤ると、全く役に立たないデータになってしまう繊細な指標でもあるのです。

MFR値の考え方と代表的な樹脂の適正範囲


測定されたMFRの数値は、具体的に製品開発の現場でどのように活用すればよいのでしょうか。
「数値が高いほうが良いのか、低いほうが良いのか」は、作りたい製品や加工方法によって180度変わります。
ここでは、MFR値を読み解くための羅針盤となる考え方を紹介します。

MFR値の範囲と用途例

MFRの値は、樹脂の分子量(分子の鎖の長さ)と密接に関係しています。
一般的に、MFRが低い=分子量が大きい(分子の鎖が長い)、MFRが高い=分子量が小さい(分子の鎖が短い)という関係にあります。
この特性を踏まえ、用途ごとの適正な方向性を整理します。

MFRが低い(流動性が低い・粘度が高い)場合

  • 特徴: 溶けてもドロっとしており、形が崩れにくい。 分子鎖が長いため、耐衝撃性や耐環境応力亀裂性(ESCR)などの機械的強度が優れている傾向があります。
  • 適した成形方法:
    押出成形: パイプ、ホース、シート、フィルムなど。ダイから出た後に形を維持する必要があるため。
    ブロー成形: 洗剤のボトルやタンクなど。パリソン(風船状にする前の樹脂)が垂れ下がらないようにするため。
  • 数値のイメージ: 0.1 ~ 1.0 g/10min 程度

MFRが高い(流動性が高い・粘度が低い)場合

  • 特徴: 溶けると水のようにサラサラ流れ、細かい隙間に入り込む。 成形サイクルを短くできるが、耐衝撃性などの強度は低くなる傾向があります。
  • 適した成形方法:
    射出成形: 家電部品、自動車の内装、食品容器など。複雑な形状の金型に、高い圧力で一気に流し込む必要があるため。
    繊維加工: 不織布や繊維など。細いノズルから高速で吐出するため。
  • 数値のイメージ: 10 ~ 50 g/10min 以上

このように、強度が求められるパイプには「低MFR品」、薄肉で複雑なスマホケースには「高MFR品」というように、適材適所で使い分ける必要があります。

代表的な樹脂のMFR一覧と選定のポイント

樹脂の種類によって、一般的なMFRのラインナップは異なります。
以下に、代表的な汎用樹脂における一般的なMFRの目安を挙げます(※メーカーやグレードにより大きく異なります)。

樹脂の種類 一般的なMFR範囲(g/10min) 主な用途の傾向
ポリエチレン (PE) 0.05 ~ 30 低いものはゴミ袋やパイプ、高いものは買い物袋や食品包装。
ポリプロピレン (PP) 0.5 ~ 100 低いものはシートやケース、高いものは自動車バンパーや家電。
ポリスチレン (PS) 1.0 ~ 20 食品トレイやプラモデル。比較的流れやすいものが多い。
ABS樹脂 5 ~ 50 電気製品の筐体や玩具。成形性と強度のバランス重視。
ポリカーボネート (PC) 5 ~ 20 耐衝撃性が高いため粘度が高い傾向。精密部品に使用。

選定のポイント:

  • 成形法の確認: まず、「射出」か「押出」かを確認します。射出なら高め、押出なら低めが定石です。
  • 形状の複雑さ: 薄肉製品や複雑なリブ(補強)がある形状の場合、流動性が不足すると充填不足になります。少し高めのMFRを選定するか、流動解析(シミュレーション)を行うのが無難です。
  • 強度の要求: 「とにかく流れればいい」とMFRが高すぎるものを選ぶと、製品が落下したときに割れやすくなるリスクがあります。流動性と強度はトレードオフの関係にあることを忘れずに、ギリギリのバランスを見極めることが設計者の腕の見せ所です。

まとめ:MFR(メルトフローレート)を理解して最適な樹脂選定を


本記事では、プラスチックの性能評価において欠かせない指標であるMFRについて解説してきました。

  • MFRとは: 樹脂の「流れやすさ」を表す指標であり、単位はg/10min。
  • 測定方法: JIS K 7210に基づき、規定の温度と荷重で押し出された量で決まる。
  • 選び方: 射出成形には「高MFR(サラサラ)」、押出成形には「低MFR(ドロドロ)」が基本。流動性と強度はトレードオフの関係にある。

MFRは単なるカタログスペックの数字ではありません。
その数字の向こう側には、「製造ラインでスムーズに流れるか」「製品として十分な強度を持てるか」という、ビジネスの成功を左右する情報が詰まっています。

SHIFT ON(シフトオン)では、企業のサステナビリティ推進を支援するため、成形加工に適した多様な環境対応樹脂を取り扱っています。

「環境に優しい素材を使いたいが、成形不良が心配」
「リサイクル材に切り替えたら、製品の強度が低下してしまった」
このようなお悩みをお持ちの企業ご担当者様は、ぜひ一度、プラスチック素材の専門家であるSHIFT ONにご相談ください。

当社では、再生プラスチックやバイオマス樹脂など、環境配慮型素材の特性を熟知したプロフェッショナルが、貴社の課題に最適なソリューションをご提案いたします。
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【参考】
日本プラスチック工業連盟
日本産業規格 JIS 「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方−第1部:標準的試験方法」

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